【解説】酒造り唄について

酒造り唄とは、かつて酒造りの作業中に歌われていた唄のことで、蔵人たちが動作のリズムを合わせたり、辛さを和らげるために歌っていた。その後、高度成長期とともに酒造りの機械化が進むと、次第に歌われなくなった。

ここで展示している酒造り唄の数々は、消えゆく唄の行く末を案じた阪田美枝さんが1996年から99年にかけて各地の杜氏組合に赴いて録音し、著書『定本 日本の酒造り唄』に収録したものである。

本展で酒造り唄を紹介するにあたり、同書に掲載されている元月桂冠大倉記念館名誉館長の栗山一秀氏による以下の解説を引用させていただきたい。

「(前略)

(酒造りにおいて)杜氏たちの経験と勘によって次第に技法が練り上げられてゆく過程で、寒くて眠い、辛いことの多かった酒造りの作業にリズムを与え、働く人々を元気付け、また大勢が一緒に行う作業の調子を揃え、さらに時間の調節や、数を数える役をも担う「酒造り唄」が自然発生的に生まれていった。これらの技法が口伝によって伝承されると共に、いろんな工程に合わせた作業唄もまた歌いつがれていった。

この「酒造り唄」の元唄になったと思われるのは、杜氏・蔵人たちがそれぞれの故郷で従事している生業での作業唄が多い。たとえば、農業の「籾摺唄(もみすりうた)」が「酛摺唄(もとすりうた)」に転用されていたり、林業の「木挽唄(こびきうた)」や漁師たちの「櫓漕唄(ろこぎうた)」などが元になっている場合もある。さらに、各地の酒唄の元唄となっている「田植唄」は「田の草取唄」から転用されたものもあり、数ある歌の中には中世の「室町小町」の曲調を伝えているものもあるというから面白い。

♪目出度目出度の若松さまよ 枝も栄えて葉も茂る

これなどは、いろんな流派、種々の行程でよく歌われる歌詞だが、その節回しは一つとして同じではない。これは一つの技法とその唄が流派を超えて伝わるうち、その土地の節回しに変わってしまったからであろう。

(中略)

その後、酒造り技術はさらに大きな進歩をとげ、酒造り唄を歌う工程が次々となくなっていったのは、またやむを得ないことであった。

そうした状況の中で、阪田美枝さんの大変なご努力によって、このたび、無形文化財的価値を持つ各流派の「酒造り唄」がCDに収録された。これによってその旋律も記録されることとなり、これらが歌詞と共に冊子として刊行されたことは誠に喜ばしい。

杜氏たちの伝統的技法を後世に伝え、日本の酒造り文化を広く社会に知ってもらう為の貴重な資料として、末長く本書が活用されることを願ってやまない。」

阪田美枝著『定本 日本の酒造り唄』より「解説「日本の酒造り唄」について(栗山一秀)」を引用

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