【解説】酒造りの工程と唄

酒造り唄は作業ごとに歌う唄があった。酒造りの工程を見ながら、どこでどのような唄が歌われていたのか見てみよう。

「白鹿」を醸す辰馬本家酒造での明治時代の酒造りを参考に描かれた『季刊大林No.37  1993 灘五郷』に掲載されたイラストから許可を得て転載。各工程の細かい部分まで丁寧に描かれ、全て手作業で行われていた当時の酒造りがわかる貴重な図解となっている。また、米の仕込み量を中心に酒造りをたどる以下の説明文は、同冊子の丹波杜氏の森田浩氏と宮坂卓也氏による解説を参考に作成した。

図面上の文字はすべて國酒デジタルミュージアムが加筆。
 出典:株式会社大林組『季刊大林No.37  灘五郷』より「灘の酒蔵・産業復原」
    ©︎株式会社TEM研究所

作業工程作業内容酒造り唄
秋洗い桶などの道具を消毒も兼ねて湯で洗う洗い唄
1:洗米精米された白米を水で洗う米洗い唄
2:蒸米洗った白米を甑(こしき)で蒸す
3:麹仕込み(麹作り、製麴)冷ました蒸米にモヤシ(種麹)を混ぜ、麹を作る
4:酛作り蒸米、麹、水を混ぜ合わせて酛(酒母)を仕込む酛すり唄・酛掻き唄​・櫂入れ唄・数え唄
5:もろみ仕込み蒸米、麹、水、酛を初添え、仲添え、留添え、と3回に分けて大きな木桶に入れて仕込む(三段仕込み)櫂入れ唄・数え唄
6:上層醪を酒袋に入れて槽(ふね)の中に並べ、上から圧をかけて搾る
7:澱引き搾った酒を大桶に入れて滓を沈め、澄んだ部分(清酒)と滓を分ける
8:火入れ上澄みの清酒を漆を塗った大釜に入れて約60℃に熱し、火入れを行う
9:貯蔵火入れをした酒は大桶に入れ、蓋の上から和紙で目張りをして秋まで貯蔵する
10:出荷酒樽に詰めて出荷する

酒造りとは、微生物相手の24時間体制の作業である。日本酒は蒸した米に麹と水を加え、発酵させたものだが、その過程では微生物の働きが不可欠で、麹菌の酵素が蒸米に含まれるデンプンやタンパク質をブドウ糖やアミノ酸へ分解し、酵母が糖分をアルコール発酵させている。そのため、麹や酛は混ぜ合わせたり小分けして温度調整を行い、酛や醪を櫂で攪拌して発酵を促すなど、微生物の繁殖をコントロールしながら造り上げている。

酒造りは杜氏を中心とする蔵人たちのチームで行い、最小で6人、このイラストのような1ツ半仕舞の蔵では18人構成となる。冬場の厳しい作業の現場で、酒の造り手たちは、リズムを合わせたり、士気を上げるために唄を歌ってきた。

このイラストのタイトルにもなっている「1ツ半仕舞(基本蔵)」とは、酒蔵の生産能力(規模)を表している。酒蔵の生産規模は通常「〜石」で表現されるが、「石(こく)」とは数量を示す単位で、1石=10斗=100升=約180リットルと換算することができる。蔵の生産能力の目安として、1日で使い切る酒米の量(精米から蒸米まで加工できる量)を「石」単位で表しているということだ。

同時に、生産の規模を「半仕舞」という単位で表現することもあった。半仕舞は5石(750kg)を意味し、イラストのような「1ツ半仕舞の蔵」は、半仕舞の3倍、つまり、1日に15石(2250kg)の白米を使用し、蒸すことができる規模の蔵である。

1ツ半仕舞の蔵は「基本蔵」とも呼ばれ、15石の白米(蒸米、麹)と18石の宮水で大桶(33石)1本分の醪を仕込む。大桶は33本あり、すべて仕込むと一冬に1089石の醪が仕上がり、作業中の目減りや酒粕分を差し引いて約1000石(約180,000リットル)の清酒ができあがる。そのため、清酒の生産量から「千石蔵」と呼ばれることもあった。

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